諦めなきゃ、って何度も思った。
思ったそばから、彼の名前がスマホに浮かぶだけで、指が勝手にトーク画面を開く。
もう会えないと分かってる人の投稿を、深夜に何周もして。
なんで私、こんなことしてるんだろう
天井の木目を数えながら、明日こそやめる、って毎晩ちいさく誓う。翌朝には、また同じ。
忘れようとするほど、その人は部屋に居座る
考えないようにする、は考えつづける行為
彼のことを考えないようにしよう。
そう決めた瞬間、あなたの頭はどこを向いてる? 彼、だよね。
考えないという指令を出すために、まず彼を思い浮かべないといけない。
だから努力すればするほど、彼の姿は濃くなる。壁に貼ったポスターを、毎日はがそうとして見つめてるようなもの。
忘却は、努力でたどり着ける場所じゃない。狙って忘れられた人なんて、一人も見たことがない。
あなたが好きなのは、彼じゃなくて彼といた時の自分かも
これ、けっこう痛いところを突く話。
実らない恋を手放せない人は、相手そのものより、その恋をしていた自分に未練があることが多い。
彼を思ってドキドキしてた自分。頑張ってきれいでいようとした自分。生きてる感じがした、あの毎日。
恋が終わると、その熱い自分ごと失う気がして、だから握りしめる。
でもさ、その熱は彼の所有物じゃない。あなたの中から出たもの。
彼を手放しても、熱そのものは、ちゃんとあなたに残るのに。
私が三年、叶わない恋を引きずってやったバカなこと
偶然を装って、同じ道を歩きつづけた日々
既婚だと知ってからも好きだった人がいて、彼が通る時間に、私はその駅の改札にいた。
偶然を装って。何度も。
あ、久しぶり、と言う自分の声が、自分でもわざとらしくて。
その日の夜、鏡の前で顔が赤くなってた。恥ずかしさなのか、悔しさなのか、区別がつかなかった。
それでも翌週、私はまた同じ改札に立ってた。三年。ほんとに、三年。
終わりは、いい思い出じゃなく最悪の場面で来た
きれいに整理できたわけじゃない。
終わったのは、彼が私に向かって、ごく普通の顔で家族の話をしはじめた日。
今度の休みは子どもと動物園なんだ、って。
何気ないその一言を聞いた瞬間、耳の奥がしんと遠くなって、足の下の地面がやわらかくなった気がした。
私はこの人の人生に、最初から入ってなかった。ずっと。一日も。
その帰り道、涙は出なかった。ただ、コンビニでおにぎりを買って、公園のベンチで黙々と食べた。妙にしょっぱかった。
叶わない恋を終わらせる、現実的な手順
諦めるんじゃなく、期限を切る
諦めよう、は漠然としすぎてて機能しない。
だから私は途中から、期限で区切ることにした。
今月いっぱいは、好きでいていい。存分に思っていい。ただし来月の一日から、連絡先は消す。
禁止するより、許可してから区切るほうが、人はちゃんと動ける。
好きな気持ちを罪みたいに扱うと、逆に燃える。堂々と好きでいて、そのうえで幕を下ろす日を決める。
物理的に消す。心の整理は後からついてくる
順番を逆にしてる人が多い。
気持ちの整理がついてから、連絡先を消そうとする。それ、一生こない日を待ってるのと同じ。
先に消す。トーク履歴も、写真も、フォローも。心はあとから、しぶしぶ追いついてくる。
消した直後は、指が何度もあの場所を探しにいく。スマホを持つたび、空振りする。
その空振りを、三週間ぶん耐える。それだけで、脳は彼を探すのをやめはじめる。
気持ちが先、行動が後。この順番を捨てられるかどうかで、終わりの日が何年もズレる。
空いた時間に、別の何かを置く
恋を引き算しただけだと、そこにぽっかり穴が開く。人は空白に耐えられない。
だから、必ず何かを置く。
新しい恋じゃなくていい。むしろ最初は、人じゃないほうがいい。
私は当時、意味もなく走りはじめた。夜の川沿いを、息が上がるまで。
汗が顎から落ちて、心臓がどくどく鳴って、そのあいだだけ、彼のことを考えなかった。
彼を忘れる時間じゃなく、彼を思い出す暇がない時間を作る。
その積み重ねが、いつのまにか、部屋から彼の気配を薄くしていく。
終わった恋は、なかったことにしなくていい
忘れなくていい。ただ、隅に置く
これだけは言っておきたい。
きれいさっぱり忘れる必要なんて、まったくない。
その恋は、たしかにあなたを動かした。夜中に泣かせたし、朝を早く起こした。
それを黒歴史みたいに扱うのは、あの頃のあなたに失礼でしょ。
部屋の真ん中に飾るのをやめて、引き出しの奥にしまう。それでいい。
たまに開けて、あぁそんなこともあったね、で閉じられるようになったら、それがもう終わってる証拠。
三年後、あの改札を通ったときの話
何年か経って、仕事の用事であの駅を使った。
改札の前で、ふと足が止まった。ここに、毎週立ってたな、って。
おかしなことに、胸はなにも痛まなかった。ただ、その頃の自分がすこし遠くに見えて。
バカだったな。でも、必死だったな。それだけ。
実らない恋を終わらせるって、彼を憎むことでも、なかったことにすることでもない。
何年か後に、その景色の前で普通に立てるようになる、それだけのことなの。
その日は、たぶん、思ってるより静かに来るよ。
