待ち合わせの改札で、同じ色のシャツが向かってきた
秋の入口。
改札の向こうから歩いてくる彼を見つけて、手を振ろうとした瞬間、腕が止まった。
ベージュのシャツに黒のパンツ。
わたし、ベージュのシャツに黒のパンツ。
え、うそ
目の前まで来た彼が、こっちを上から下まで見て、口の端がゆるんだ。
「揃えた?」
揃えてない。断じて。
駅ビルのガラスに映った二人が、まるで示し合わせたみたいで、耳の後ろがじわっと熱くなった。
彼は笑ってたけど、その笑いが嬉しいほうなのか、困ってるほうなのか、判定できなかった。
偶然のペアルックが、なぜこんなに気になるのか
服がかぶる時の男性心理、喜んでるのか、恥ずかしがってるのか、内心引いてるのか。
服がかぶるって、二人の関係を外から見える形にしちゃうでしょ。
周りにカップルだと思われる。付き合ってない相手なら、なおさら。
その視線を、彼がどう受け取ってるかが知りたい。
服がかぶった時、男の内側で動くもの
まず、単純にびっくりしている
一番先に来るのがこれ。
彼らは他人の服を、女性ほど細かく見てない。
だから、かぶったことに気づくまでに時間がかかるし、気づいた瞬間の驚きが大きい。
その驚きが、笑いになって出る。
喜びでも照れでもなく、ただの反射。
最初の一秒の表情は、判定に使わないほうがいい。
付き合っている相手なら、ちょっと得意になる
恋人同士の場合、彼らの内側はわりと単純で、嬉しい寄り。
狙ってないのに揃った、という事実が、相性の証明みたいに感じられる。
周りから、あの二人カップルだね、と見られることも、悪い気はしてない。
口では、恥ずかしいなあ、と言う。
でも、その日の写真を撮りたがったり、後から服の話を持ち出したりするなら、内心は満足してる。
付き合っていない相手だと、周囲の目を計算する
ここが分かれ目。
片想いの段階や、まだ何でもない関係の場合、彼らの頭に浮かぶのは、周りにどう見えるか。
好意があるなら、この偶然を口実に距離を縮めようとする。
ペアルックみたいだね、と自分から言ってくる。
好意がなければ、話題にしない。触れないことで、恋人扱いを避ける。
触れるか、触れないか。
たったそれだけで、かなり読める。
自分の服選びに、自信がない人ほど気にする
かぶったことより、自分がどう見えてるかで頭がいっぱいになる人もいる。
これ、女性側の服がおしゃれだった場合に特に起きる。
同じ色なのに、向こうのほうが決まってる。
そう感じると、なんとなく落ち着かなくなる。
恋愛感情とは別の場所で、居心地の悪さが発生してる。表情が硬く見えるのは、たいていこのパターン。
本当に嫌がる場合は、行動に出る
一緒に歩くのを避ける。上着を羽織って色を隠す。
こういう動作が出たなら、彼はカップルに見られることを避けてる。
理由は、好意がないか、他に見られたくない事情があるか。
言葉より、上着を着るかどうかで見たほうが確実。
三回かぶって、勘違いしたまま半年過ごした話
偶然が続いて、運命だと思った
改札のベージュから、二ヶ月の間に、三回かぶった。
白のスニーカー、ネイビーのニット、デニムの色味まで。
これ、絶対そういうことでしょ
わたしの中で、偶然が証拠に変わってた。
好みが似てる、感覚が合う、だから惹かれ合ってるんだ、と。
二回目の後、彼が言った。
「なんか、毎回かぶるね」
その一言を、わたしは半年間、宝物みたいに持ち歩いてた。
秋冬のベーシックは、誰でもかぶる
気づいたのは、友達に写真を見せたとき。
「これ、秋の定番じゃん。みんな着てるよ」
ベージュ、ネイビー、白スニーカー。そりゃかぶるわ。
運命じゃなくて、季節の売れ筋だった。
その日の帰り、自分のクローゼットを開けて、しばらく立ち尽くした。
並んでるのは、全部その年に流行った色。誰とでもかぶる服を、二人の証だと思い込んでた。顔から火が出るってこういうことかと思った。
服から読み取れるのは、彼の行動だけ
学んだのはここ。
かぶったという事実に、意味はない。
意味があるのは、かぶった後に彼が何をしたか。
わたしの彼は、かぶるねと言っただけで、写真も撮らなかったし、その後の話題にもしなかった。
振り返れば、判定材料は最初から出てたの。それを見ずに、服の色ばかり見てた。
かぶった瞬間の反応で、好意を読む
写真を撮ろうとするか
一番わかりやすい。
かぶったことを記録したがる人は、その状態を残しておきたい人。
自分から撮ろうと言ってくるなら、二人でいる姿を肯定してる。
撮るのを嫌がる、あるいは無反応なら、残したい気持ちがない。
後から話題にするか
その日だけでなく、後日、この前かぶったよね、と持ち出してくるか。
記憶に残ってて、それを共有したい相手だと思われてるかどうか。
持ち出さないなら、彼にとってあの日は、ただの一日。
周りに指摘されたときの顔
友達に、あれ、ペアルック? と言われたとき。
照れて笑うか、慌てて否定するか、平然と流すか。
否定の速さが、答えになることが多い。
違います、と即答するのは、その関係だと思われたくない。
まあね、と流すなら、否定する必要を感じてない。
同僚ハルナが、かぶった日を口実に使った例
その場でネタにして、次の約束を取った
同じ職場のハルナ。
気になる人と服がかぶった日、彼女はこう言った。
「かぶったついでに、今日ランチ一緒に行きません? 揃いで歩きましょ」
彼、笑って乗った。
偶然を、誘う理由に変えただけ。
恋愛の話にせず、面白がる形にしたから、断る理由がなかった。
意味を探すより、使ってしまう
彼女に聞いたら、こう言ってた。
「かぶったのが何かのサインかどうかなんて、考えても答え出ないですよね」
その通りなんだよね。
偶然に意味を見出す作業は、いくらやっても確定しない。
偶然を口実に動くほうが、百倍早く答えが出る。
二ヶ月後、二人は普通に付き合ってた。
三回かぶって半年悩んだわたしと、一回かぶってランチに誘った彼女。差は、そこだけ。
かぶることを、避けるか活かすか
付き合っているなら、気にしなくていい
恋人とかぶるのを恥ずかしがる人がいるけど、気にしなくていいと思ってる。
彼らは、意図しないお揃いを、わりと嬉しがる。
狙ったペアルックには抵抗があっても、偶然なら受け入れやすい。
むしろ、かぶった日はネタにして楽しんだほうがいい。
恥ずかしがると、彼のほうも恥ずかしがるから。
付き合っていないなら、判定に使う
まだ何でもない相手なら、その日の反応を全部見ておく。
写真、話題、周囲への否定。
この三つで、かなり見える。
見えたら、動く。
好意がありそうなら、偶然を口実に誘う。
なさそうなら、それはそれで、早めにわかってよかったと思えばいい。
服の色に、意味を探さない
服がかぶるのは相性の証明にならない。
好みが似てるのは事実かもしれない。でも、それが恋愛感情に直結してるわけじゃない。
同じ色を選ぶ人は、世の中に山ほどいる。
その中の一人と、たまたま同じ日に同じ場所にいただけ。
偶然は偶然として楽しんで、判定は彼の行動でやる。この分業が、一番傷つかない。
あのベージュのシャツ、今年もクローゼットに入ってる。
着るたびに、駅ビルのガラスに映った二人を思い出して、ちょっとだけ笑えるようになった。
