二年分のアプリを消した夜、彼は缶ビールを開けた
友人の弟、三十四歳タツヤくん。
二年間、婚活アプリと結婚相談所を掛け持ちしてた人。
会った人数、たぶん六十人超え。
成婚ゼロ。
ある日、彼は全部やめた。
アプリを消して、相談所を退会して、その夜に缶ビールを一本開けた。
「肩が軽くなった」
後日、飲みの席でそう言ってた。
その言い方が、妙に引っかかったの。
諦めたにしては、表情が明るかったから。
婚活男性
選ばれる側に立たされ続ける
これが最大の消耗源。
アプリでは、いいねを送って待つ。
相談所では、申し込んで返事を待つ。
承認の判断を、常に相手に握られてる状態。
返事が来ない日が続くと、自分の市場価値が低いという結論だけが残る。
仕事では評価される人でも、ここでは数字で測られる。
年収、身長、年齢。
人格が入り込む余地がないまま、弾かれ続けるの。
会うたびに、面接をしている感覚
初対面の一時間で、収入と家族構成と結婚観を確認し合う。
恋愛の入口が、審査から始まる。
タツヤくんが言ってた。
「毎回、履歴書を口頭で読み上げてる気分だった」
楽しい会話をしても、条件が合わなければ終わる。
人として気が合ったことより、条件が優先される場面を何度も経験すると、感情のほうが摩耗していく。
金と時間が、一方通行で出ていく
相談所の月会費、お見合い料、デート代。
男性側が負担する割合が高い構造になってることが多い。
六十人と会えば、食事代だけで相当な額。
土日が全部つぶれる。
趣味も、友人との時間も削られていく。
投資した分だけ、やめにくくなるの。
ここまでかけたんだから、という気持ちが判断を狂わせる。
結婚そのものへの意欲が、下がっていく
これが一番の皮肉。
結婚したくて始めたのに、続けるほど結婚が嫌になる。
断られ続けると、結婚という行為自体が苦い記憶と結びつく。
タツヤくんも、二年目には結婚したい気持ちがほぼ消えてたって。
目的のための手段が、目的を壊していく。
やめた後に、彼が取り戻したもの
土日が、自分のものに戻った
やめて最初に変わったのが、週末だった。
お見合いの予定が消えて、空白ができた。
最初は、何をしていいかわからなかったらしい。
二年間、土日は全部埋まってたから。
三週間くらいして、学生時代にやってたバスケを再開した。
市民体育館の、社会人サークル。
人と会うのが、楽しくなった
バスケに行き始めて、彼の表情が変わった。
審査されない場所で人と会うのが、こんなに楽だったのかと。
婚活の場では、常に評価対象だった。
サークルでは、ただのメンバー。
「久しぶりに、初対面の人と年収の話をしないで喋った」
この一言が、全部を表してたと思う。
自分を売り込む姿勢が、抜けた
婚活中の彼は、会話が微妙に不自然だった。
自分の良さを伝えようとする癖がついてて、話がどこか営業っぽかったの。
やめて半年後に会ったとき、それが消えてた。
普通に笑って、普通に人の話を聞いてた。
魅力って、売り込むのをやめた瞬間に出るものなんだな、と思った。
一年後、彼に起きたこと
サークルの練習後、何気ない会話から
やめて一年。
バスケのサークルに、新しく入ってきた女性がいた。
練習後の自販機の前で、シューズの話をした。
それだけ。
そこから、練習後にみんなで飲みに行くようになって、二人で話す時間が増えて。
半年後に付き合って、その一年後に入籍した。
条件を一度も確認しないまま、進んだ
面白いのがここ。
彼、相手の年収も、家族構成も、結婚観も、最初の半年は何も知らなかった。
聞く必要がなかったから。
婚活では一時間で確認してたことを、一年かけて自然に知っていった。
「順番が逆だったんだよ」
彼はそう言ってた。
条件を先に見て人を見るか、人を先に見て条件を後から知るか。
同じ情報でも、順番で結果が変わる。
やめなければ、出会っていなかった
これが一番効いた話。
婚活を続けてたら、土日はお見合いで埋まってた。
バスケに行く時間はなかった。
結婚するための活動をやめたから、結婚できた。
矛盾してるようで、けっこう本質を突いてると思う。
やめる判断は、逃げではない
成果が出ない期間が一年続いたら、方法を疑う
はっきり書くね。
一年続けて何も進展がないなら、努力の量の問題じゃない。
その方法が合ってないの。
プロフィールを直す、写真を撮り直す、申し込む人数を増やす。
改善策は無限にあるけど、そもそも土俵が合ってない人がいる。
条件で比較される場で魅力が出る人と、時間をかけて伝わる人。
後者が婚活を続けても、削られるだけ。
続けるほど不利になる、という現実
これも言っておきたい。
疲れた顔をした人は、選ばれにくい。
断られ続けて自信をなくした状態で臨むと、その空気が伝わる。
そして、また断られる。
悪循環が加速していく。
一度抜けて、回復してから戻るほうが、結果が出やすい。
やめるのは撤退じゃなくて、立て直し。
相手が婚活をやめた場合、どう見るか
逆側の話も書いておく。
気になってる男性が婚活をやめたと聞いたら、それは諦めた証拠じゃない。
多くの場合、疲れてやめる。
そして、やめた後のほうが人間として自然な状態になってる。
婚活をやめた人は、結婚したくないわけじゃないの。
探す作業に疲れただけ。
そのタイミングで自然に近づける人が、いちばん有利だったりする。
何をやめて、何を続けるか
出会いをやめるのではなく、審査をやめる
勘違いしてほしくない部分。
婚活をやめることは、出会いを閉ざすことじゃない。
やめるのは、条件で人を測る場に自分を置き続けること。
続けるのは、人と会うこと自体。
サークル、習い事、仕事の付き合い、友人の紹介。
評価されない場所で人と会う機会は、いくらでもある。
結婚から逆算するのを、やめる
これが核心だと思ってる。
結婚という結論から逆算して人を見ると、全員が候補者になる。
候補者としか会えない人生って、しんどいでしょ。
タツヤくんが変わったのは、逆算をやめた瞬間だった。
目の前の人が結婚相手になるかどうかを考えずに、その人と話す。
それだけで、会話の質が変わる。
焦りは、外から見える
急いでる人の焦りは、隠せてるようで漏れてる。
質問の内容、話す速度、決断を迫るタイミング。
そして、焦ってる人と一緒に暮らす未来を想像するのは難しい。
やめてよかった、と言う人が語ってるのは、たぶんそこ。
結婚を諦めたんじゃなくて、焦りを降ろしただけ。
あの缶ビール、実は発泡酒だった。
二年間節約してたからって、笑いながら言ってたのが忘れられないんだよね。
