日付のついていない、また行こうね。
あれは次のデートの予告編じゃない。
楽しかった夜の最後に流れる、エンドロールみたいなものなんだよね。
脈ありのサインに数えるのは、今夜でおしまいにしよう。
25歳の遥さんは、初デートの帰りに駅前でそう言われた。
今日の店、また来たいな。
彼は笑いながら、改札の向こうで手を振ったんだって。
家に着くまでずっと、次はいつだろうと考えていたそう。
翌日お礼を送ると、返ってきたのは、よかった、の一言だけ。
三日たっても、会う話は出てこない。
一週間後、今度いつ行く?と自分から聞いてみた。
答えは、近いうちに。
その近いうちは、とうとう来なかったの。
二週間後には、既読がついても会話が続かなくなっていた。
改札前の笑顔を思い出すたび、顔から火が出そうになったとか。
あの一言を約束だと信じ込んだ自分が、情けなくて。
聞いていた私のほうが、胸がきゅっと縮んだわ。
恥じるべきは、遥さんじゃないのにね。
この一言にまつわる話を、男女あわせて十数人ぶん聞き集めてきた。
言われた女性の話も、言った男性の言い分も。
並べてみたら、見えてきたことがある。
また行こうねの中身は、言葉そのものじゃなく、そのあとの二日間に出るの。
甘い言葉を浴びた夜ほど、カレンダーのほうを見てほしい。
また行こうねと言った瞬間の男性心理
黙って別れる数秒が、気まずいだけ
29歳の明日香さんは、あとから彼本人に理由を聞けた、めずらしい人。
あの場で黙って終わるのが怖かった、と打ち明けられたそう。
楽しかったなら、何かひとつ置いて帰りたい。
けれど、次の予定まで決めきる自信はない。
その隙間にちょうど収まるのが、また行こうねだったわけ。
家に帰れば、また行きたい気持ちと今週の忙しさが一度に押し寄せる。
そこへ、ほんの少しの面倒くささも混ざってくる。
先に勝つのが面倒くささのほう、という夜もあるんだとか。
明日香さんは、腹が立つより先に全身の力が抜けたって。
あの笑顔に、嘘はひとつもなかった。
嘘じゃない言葉ほど、予定にならないまま消えていく。
気まずさを埋める一言なら、女の側にも覚えがあるはず。
24歳のひなのさんは、帰り際に自分から言ってしまった側。
相手は悪くはないけど、次を約束するほどでもない人だった。
沈黙がしんどかったんだって。
相手の顔が明るくなるのを見て、喉の奥が苦くなったそう。
(それを見ちゃうのが、いちばんきついやつ…)
次いつ空いてる?と届いても、今ちょっと忙しくて、落ち着いたら、と返しただけ。
落ち着いた連絡は、自分からは一度も送らなかった。
今でも男性から同じ言葉をかけられると、あの夜の自分の顔が重なるらしいよ。
誰にでも配っている口ぐせ
27歳の翔さんは、友達にも同僚にも、一度会っただけの女性にも言う。
悪気はゼロ。
その場を気持ちよく締めるための、ただの口ぐせ。
あとで女性から、あのとき本気だったの?と聞かれて、返事に詰まったみたい。
本気というより、悪くなかった、くらいの温度だったから。
悪くない程度の相手に、土曜を丸ごと渡せるほど、彼の週末はヒマじゃない。
男の頭の中では、可能性を残すことと予定を入れることが、別の引き出しにあるのよ。
既婚者が関係を固めないための一言
いちばん腹の底が冷えたのは、36歳の和也さんの話。
既婚者で、平日の夜にだけ会う相手がいる人。
店を出るたびに、また行こうね。
翌週の火曜はたいてい空いているのに、その場では日にちを口にしない。
言えば、関係が固まってしまう気がするから。
固めたくはないけれど、会いたい夜もある。
その矛盾を、あの一言でまとめて片づけているってこと。
相手が日程を出してきたら、都合のつく日だけ受ける。
出してこない週は、自分からも動かない。
相手が疲れて自然に終わるのを、本人は優しい幕引きだと信じてるんだって。
優しいわけ、なくない?
回収されない言葉を何度も積まれた側からすれば、ただの置き去りでしょ。
帰り道から翌朝で、本気かどうかの差が出る
翌朝に続きの話を送ってくる男
33歳の亮太さんは、デートがうまくいった夜ほど、その場で次を決めない派。
余韻を残したいから。
翌朝、昨日のあの話、と短いメッセージを送る。
反応がよければ、その流れで曜日を出す。
薄ければ、深追いはしない。
このやり方でうまく続いた相手もいた。
その一方で、次もって言ったくせに放置された、と怒った相手もいたそうよ。
亮太さんからすれば、放置じゃなく温度を見ていただけ。
同じ動きが、余裕にも逃げにも見えるんだよなぁ。
翌朝の一通が届いたなら、まだ望みはある。
勝負は、その一通が曜日に着地するかどうか。
感想ばかり聞いてくる男は、安心を取りに来ている
23歳の萌さんは、マッチングアプリで会った相手に、改札でまた遊ぼうと言われた。
その夜のうちに、メッセージが立て続けに届いたの。
楽しかった?俺の話長かった?また会える?
(反省会なら、ひとりでやってほしい…)
丁寧に返すほど、彼のまた遊ぼうが確認作業に変わっていくのがわかったって。
会いたいんじゃなく、自分が否定されていないかを確かめたいだけ。
返信を少し遅らせると、すかさず、忙しかった?
次の約束より先に、安心を回収しに来てるのよね。
萌さんは、二回目を断った。
断りの言葉は、また機会があれば。
自分の口から出してみて、ようやくその軽さが腑に落ちたそう。
二日たっても日付が出ないなら、それは社交辞令
言われた夜から数えて、二晩。
そのあいだに曜日が出てこなければ、あの一言は挨拶だったと割り切っていい。
どれだけ甘い言葉が添えられていても、ね。
行き先だけ決めて、日付を決めない男
28歳の奈緒さんの相手は、もっと手が込んでいた。
店を出るとき、次はあの川沿いの店行こうよ、と場所まで指定してきたの。
行きたい、と即答した奈緒さん。
家に帰ってからも、今日の話おもろかった、と届く。
店の名前も出てくる。
出てこないのは、日付だけ。
来週の土曜どう?と送ると、返事はこうだった。
土曜は予定あるかも、また空いたら連絡する。
結局、空いた連絡はそれっきり。
旅行のパンフレットだけ渡して、いつまでも連れて行かない人と同じじゃん。
行き先が具体的なぶん、期待が鮮明になって、来なかったときの痛みも深くなる。
正直言って、あいまいなまた行こうねより、こっちのほうがタチが悪い。
絶対がついていても、来月くらい?で流される
31歳の里佳さんは、三回目の食事のあとに言われた。
また絶対行こう。
絶対までついてたら、今度こそって思うっしょ。
翌朝には、昨日楽しかった、も届いていた。
二日待って、三日目に自分から聞いたの。
今度いつ空いてる?
半日たって返ってきたのは、来月くらい?
週の指定すらない、来月。
友達に話したら、絶対を信じた時点で負け、と容赦なく言われたらしい。
きつい(笑)
でも、これが当たってるんだよね。
彼は会っている最中、本気で次も行きたいと思ってる。
家で予定表を開いた瞬間、その気持ちの順位が下がっていくだけ。
断られた途端、またに逆戻りする男
26歳の琴音さんの相手は、言った翌日に律儀に誘ってきた。
ただ、誘い文句が、また行こうねって言ったし。
言った手前、回収しに来た感じがしたんだとか。
金曜は無理だと返すと、じゃあまた、でおしまい。
一瞬だけ具体的になって、断られたらまた霧の中へ戻っていく。
本気の誘いなら、断られても別の日を出してくる。
別の日が出てこない誘いは、言った自分の体裁を守るためのものなんだよ。
一週間後、そのうちの沼にはまった人たち
三か月、同じ言葉を聞き続けた優花さん
27歳の優花さんは、彼のまた行こうねを三か月聞き続けた。
会うたびに言う。
会ったあとは、形にならない。
日程を出しても、半分は、その日は厳しい。
代わりの日が向こうから出てくることは、一度もなかった。
ある夜、試しに何も提案しないでみたら、彼からも何も来なかったの。
十日後に届いたのは、最近どう、だけ。
この前また行こうって言ってたよね、と返すと、まさかのこれ。
言ったっけ。行こうよ、そのうち。
聞いた瞬間、こめかみがピキッとした。
(いや、言ったから!何回も!)
そのうち、近いうち、また。
期限のない言葉ばかりが、使われないポイントカードみたいに財布にたまっていく。
彼が優花さんを嫌っていたわけじゃない。
嫌いじゃない人と、次を作りたい人は別物。
その差を、また行こうねは器用に隠しちゃうのよ。
昼の職場で消えた、終電前のひと言
32歳の麻衣さんは、仕事帰りに飲みに行った相手に、終電間際で言われた。
翌週、社内で顔を合わせても、その話は出ない。
交わすのは、仕事の話だけ。
この前言ってた件、と水を向けると、あ、そういえば、と笑われた。
そういえば、で済む温度だったわけ。
夜の空気の中でしか生きられない言葉が、昼の蛍光灯の下であっけなく消えた。
麻衣さんにも、恋に進みたい気持ちはあったから。
消えたあとの席に座り続けるのが、いちばんこたえたって。
言われなければ、期待もしなかったのに(泣)
はぁ…職場の相手だと、明日も顔を合わせなきゃいけないんだよなぁ。
本気の男は、また行こうねの代わりに曜日を言う
その場で水曜の19時を出した男
34歳の加奈さんは、ふたりの男性を比べられる立場にいた。
ひとりは帰り際、また行こうねとは言わずに、その場でこう出した。
来週の水曜、19時から空いてる。あの店どう。
加奈さんは少し面食らったそう。
本音を言えば、まだ余韻に浸っていたかったし。
それでも家に着くと、次が決まっている安心のほうが勝ったって。
もうひとりは、また行こうねが抜群にうまい人。
駅まで送ってくれて、翌朝には、昨日のデザートまだ気になってる、と届く。
会話は弾むのに、予定だけがいつまでも決まらない。
デートそのものは送ってくれた彼のほうが上手だった、と加奈さんは言う。
上手なのに、前に進まない。
水曜の彼はぶっきらぼうなのに、ちゃんと次があった。
言葉の甘さと、関係が進む速さは、まるで別の話なのよね。
言えなかった男が、曜日を口にした日
30歳の大輝さんは、気になる相手の前ほど、また行こうねが言えないタイプだった。
口にしたら、次の日取りを自分で決めなきゃいけなくなる。
決められない自分を見られるのは、もっと怖い。
だから別れ際は、今日はありがとう、だけ。
女性の目には、冷たく映る。
本当は、軽い約束を量産する男より、意外と慎重だっただけなのにね。
そんな終わり方を何度も繰り返したあと、大輝さんは恐る恐る言えるようになった。
来週のどこか空いてる?
言えた回のほうが、関係は前へ動いたんだって。
これを聞いたとき、ニヤニヤが止まらなかったわ。
不器用な曜日の一言は、どんなに甘いまたよりも、カレンダーに残る。
こちらから曜日を渡せば、答えはすぐ出る
遥さんの今度いつ行く?は、ちょっともったいなかった。
いつ、と聞かれた男は、近いうちに、で逃げられるから。
返すなら一回きり、曜日と時刻をセットにして。
来週の木曜、19時はどう?
別の日が返ってきたら、まだ脈はある。
近いうちに、が返ってきたら、そこで終わりにしていい。
二度目の打診は、しない。
終わったエンドロールを巻き戻すより、次の一本を探しに行くほうがずっと早いよ。
