彼女いるのに他の女がかわいいのは普通。アウトなのは思ったあと

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エスカレーターを降りた先に、白いワンピースの女の子がいた。
友達と笑いながら、髪を耳にかける。
その仕草に、二十八歳の健太の視線が一秒だけ止まった。
隣には、付き合って二年目の彼女。
あそこ、新作のスニーカーあるって。
彼女の声で我に返ったとき、手のひらが汗ばんでいたそう。
好きなわけじゃない。
名前も知らない。
かわいい、と思った事実がひとつ残っただけ。
帰り道、腕を組んできた彼女の手を、健太はいつもより強く握り返した。
握っていないと、あの時の一秒が胸の中で育ってしまいそうで。

彼女がいるのに他の女をかわいいと思ってしまった男たちと、それを横で見ていた女たち。
かわいいと思うのは、くしゃみと一緒。
出るのは止められないし、出たからって浮気でもなんでもない。
アウトになるのは、そのあと。
くしゃみを彼女の顔に向けてするか、手で押さえるか。
分かれ目は、思った一秒後の動き方にしかないんだよね。

目次

彼女いるのに他の女がかわいく見える男の心理

目が先に動いて、心があとから言い訳を探す

二十二歳の海斗は、付き合ってまだ三か月。
彼女は顔がど真ん中のタイプで、会うたびにかわいいと伝えている。
それなのに街を歩くと、ほかの子の服や髪や歩き方に目がいくの。
夜、ひとりで落ち込んだそう。
(え、俺って最低なやつ…?)
友達に打ち明けると、目がいくのと好きになるのは別だろ、と返された。
理屈では、わかる。
困るのは、ほかの子を見てしまった直後ほど、彼女を褒めたくなる自分。
そのわざとらしさに、また自己嫌悪が重なる。
それでも褒めているうちに、本当に彼女がいちばんかわいく見えてくる日もあったって。
視線は勝手に動く。
戻ってくる場所が彼女なら、それで十分じゃない?

かわいさじゃなく、新しさに反応しているだけ

二十九歳の直樹は、付き合いが長くなってマンネリを感じていた。
週の半分は彼女と過ごす。
話題は今日の夕飯と、ドラマの感想くらい。
そんな時期、ジムで同じ時間帯の女性と挨拶を交わすようになった。
顔がタイプというほどでもない。
なのに、お疲れさまです、と言われるだけで背筋が伸びる。
あとから考えて、直樹は気づいたんだって。
かわいいからじゃない。
反応してくれるから、伸びていただけ。

三十一歳の大輝も、似たところでつまずいた。
同棲して四年、喧嘩は少なくて、ご飯は当番制。
そこへ、会社の後輩が転属してきた。
報告のときに少し身を乗り出して、笑うと目が細くなる子。
大輝は資料を見るふりをしながら、その笑い方を覚えてしまったそう。
新しい声が一日に何度も耳に入ると、家の静けさが急に味気なくなる。
彼女が今日どうだった?と聞いても、返すのは、普通。
普通じゃなかった部分は、口にしたら何かが壊れる気がして飲みこんだ。
意外と、かわいく見える正体は相手の顔じゃない。
見慣れた毎日との落差のほうだったりするの。

褒め言葉の響きだけを、家まで連れて帰る夜

二十七歳の湊は、彼女とその友達と三人で飲んだ夜を、今も覚えてる。
酔った友達の子が、笑いながら言ったの。
湊くんって彼女さん大事にしてるよね、そういうのかわいい。
ただの褒め言葉。
なのに湊は、その子のかわいいの響きだけを家まで持ち帰ってしまった。
彼女が先に寝たあと、天井を見つめて自分に聞いた。
俺は今、誰をかわいいと思ってるんだ。
答えはすぐ出た。
枕で髪がつぶれた、寝ている彼女の横顔のほうが、ずっと好き。
それでも耳に残った一言が溶けるまで、三十分かかったそう。

かわいいの一秒後に、浮気の入口はある

思うだけなら、誰にも見えない。
問題は、その一秒後に体が動き出したとき。
話を聞いていくと、アウトの動きは三つにはっきり分かれていた。

口に出す、それも彼女の前で

二十四歳の翔は、サークルの飲み会でやらかした。
隣のテーブルの子の横顔を見て、笑いながら口にしたそう。
なんかあの子、顔小さいな。かわいいよな。
彼女は、同じ卓にいた。
翌朝、突然届いたのは、昨日のあれどういう意味、という短いメッセージ。
ただの感想、好きとかじゃない、と返すと、既読のまま夜まで沈黙。
会ったとき、彼女は泣いてはいなかった。
私の前で言わなくていい。
思うのは仕方ないかもしれないけど、聞かせないで。
翔はそのあと二週間、女の子の顔を見ないようにして歩いたんだとか。
見ないようにするほど、逆に目が泳ぐんだから世話ない(笑)
止めるべきは目じゃなくて、口のほうだったのにね。

三十歳の駿も、彼女と動画を見ていて同じ穴に落ちた。
画面の子を指さして、この系統、俺のタイプだわ。
彼女はリモコンを置いて、じゃあ私は何、と聞いた。
慌てて出た返事は、お前もタイプだよ。
はぁ…順番が、完全に逆。
先に他の子をタイプと言って、あとから彼女を付け足したわけ。
比べないで、私の前で品定めしないで。
そう言って、彼女はその日早めに帰ったそう。

スマホで追いかけて、いいねを押す

二十六歳の蓮は、スマホの中でやってしまうタイプ。
彼女との通話を切ったあと、なんとなくタイムラインを開く。
知らない女の子の写真に、心の中でかわいいとつぶやいて、いいね。
押した直後、通知に彼女のアイコンが出て、指が止まる。
画像を見るのと付き合うのは別、と蓮は自分に説明していた。
説明が要る時点で、ちょっとやましいんだよなぁ。
ある夜、彼女が蓮のフォロー欄を見て聞いた。
この子、誰?
このくだりを聞いただけで、私までギクッとした。
おすすめに出てきただけ、と蓮は答えた。
嘘じゃない。
でも、本当の全部でもない。
彼女は、いいねしてたじゃん、とだけ言って、それ以上は追わなかった。
追われなかったことが、怒られるよりこたえたらしい。
見限られかけている、と体のほうが先に察したから。

会える時間と場所を、覚えはじめる

ジムで挨拶していた女性の話には、続きがある。
直樹がヒヤッとしたのは、ある夜のこと。
その女性のシフトを、頭の中で覚えかけている自分に気づいたの。
彼女に内緒の予定ができたような、浮ついた高揚。
それが、いちばん危ない合図だった。
翌週から、直樹はジムに行く時間をずらした。
彼女には、なんとなく飽きた、とだけ伝えたそう。
本当は、自分の気がそっちへ流れていくのを止めたかったから。
かわいいと思うだけなら、くしゃみで済む。
相手の予定を覚えはじめたら、それはもう風邪のひきはじめ。

かわいいと思ったあと、ちゃんと戻ってきた男たち

自分から距離を切ったら、三日で薄れた

後輩の笑い方が気になりだした大輝は、一週間ほどで手を打った。
もっともらしい理由をつけて、席の配置を変えてもらったの。
近づかないようにしただけで、気持ちは三日で薄れていったって。
思ったより、あっけない。
ただ、薄れたあとに残ったものがある。
彼女に何ひとつ話さなかった、後ろめたさ。
(それは、ちゃんと背負っておこうね)
健太が帰り道に握り返したのも、同じ種類の手当てなんだよね。
離れるか、握るか。
体を彼女のほうへ戻す動きなら、なんだっていいの。

直らないなら、ルールで囲っておく

三十五歳の陽介は、離婚を一度経験している。
今は、再婚を前提に付き合っている人がいる。
それでも繁華街を歩けば、十年前と同じように目がいくんだとか。
陽介は、それを直らないものだと認めた。
その代わり、自分でルールを決めたの。
その一、二度見禁止。
その二、友達に、あの子かわいいな、と同意を求めない。
その三、連絡先は聞かない。
最後に、頭の中のかわいいな、で終わらせる。
終わらせたら、今の彼女の好きなところをひとつ思い浮かべる。
コーヒーの入れ方でも、怒ったあとの笑い方でもいい。
感じるのをゼロにしようとすると、逆に隠しごとばかり増える。
見るべきは、感じたあとに体がどっちへ動くか。
正直言って、私が十四人の話から拾った答えも、これとまったく同じ。

味噌汁の前で打ち明けた、五年目の告白

三十三歳の悠真は、結婚を意識しはじめた頃にいちばん迷った。
付き合って五年。
彼女は、喧嘩のあとに必ず先に折れてくれる人。
ある日、取引先の担当者が打ち合わせの終わりに笑った。
今日の資料、わかりやすかったです。
その笑顔が離れなくて、帰りの電車で一度だけ想像してしまったそう。
もし今、フリーだったら。
想像した自分に、奥歯をかみしめた。
五年間、熱を出した日も仕事でへこんだ日も、隣にいてくれた人がいる。
かわいいと感じた一瞬は、その五年を消さない。
でも、なかったことにもできない。
悠真は、彼女の作った味噌汁を飲みながら打ち明けた。
たまに、他の人をかわいいと思う瞬間がある。でも、それで何かしたいとは思ってない。
彼女はスプーンを置いて、しばらく黙ってから言ったの。
言うなら、その続きまで言って。私を一番だと思ってるかどうか。
悠真は、思ってる、と即答できた。
即答できたこと自体が、彼の答えだった。

品定めの言葉を、別のひと言に入れ替える

駿は、あの日から彼女の前でタイプという言葉を使わなくなった。
代わりに言うのは、お前がいちばん見てて落ち着く。
嘘じゃないらしい。
ほかの子に目がいく瞬間は、今もある。
ただ、その瞬間を彼女に配らなくなっただけ。

湊も、あの夜を境に、女の子に軽くかわいいねと言う癖をやめた。
思っても、口には出さない。
口にした途端、自分の中でその子の印象が固まってしまう気がするから。
言葉にしなかったかわいいは、くしゃみみたいに、その場で消えていく。

他の女をかわいいと思われた、彼女の側の本音

ここからは、受け取る側の話。
四人の女性は、それぞれ違う場所に線を引いていた。

彼女いるけど、で始まるかわいいは論外

二十五歳の美咲は、付き合う前の男友達に、笑いながら言われたことがある。
彼女いるけど、美咲はかわいいよな。
その場では、彼女さんに言いなよ、と返した。
家に帰ってから、その一言がまとわりつくみたいで、シャワーを長く浴びたって。
かわいいと言われたこと自体より、恋人の存在を前置きにして言ってきたのが無理だった。
まさか、断りを入れたら何を言ってもいいと思ってる?
前置きをつけるくらいなら、最初から言わなければいい。
美咲は、その男からの食事の誘いを、理由も言わずに全部断ったそう。
説明したって伝わらない人だと、その一言でわかったから。
彼女持ちの男が外でばらまくかわいいは、言われた側にも響かない。

見ないで、じゃなく、見せないで

二十七歳の彩花は、彼氏が他の子の投稿に反応しているのを見つけた。
そのとき、真っ先に鏡で自分の顔を見たんだとか。
化粧が崩れていたわけじゃない。
私以外をかわいいと思える余裕があるなら、私に一途じゃない。
頭の中で、そう短絡してしまったの。
友達には、目がいくのと乗り換えるのは別だよ、と言われた。
頭では納得。
なのに夜になると、胸の奥に小石が残ったみたいな感じが消えない。
彩花が欲しかったのは、彼が誰もかわいいと思わないことじゃなかった。
思っても、それを彩花の安心より前に出さないこと。
だから、見ないでとは言わなかった。
他の子をかわいいと言うところ、私には見せないで。
一度だけ、そう伝えたそう。
彼は、わかった、と答えた。
本当に見せなくなったのかどうかは、彩花にもわからない。
わからないまま、少しだけ息がしやすくなったって。

見ていいから、手は握ってて

二十三歳の結衣は、映画の帰りに、前を歩く女の子を彼が二度見する瞬間に立ち会った。
手は、つないだまま。
つないでいたからこそ、彼の指の力が一瞬緩んだのがわかった。
今の、見てない。
見ていないなら、言い訳はいらないはずでしょ。
結衣は、こう返したの。
見ていいよ。でも見たら、私の手はちゃんと握ってて。
彼は少し笑って、握り直した。
その夜の結衣は、胸のつかえが半分残って、半分は軽くなっていた。
全部を禁止したら、二人とも息が詰まる。
全部を許したら、自分の居場所がぼやける。
そのあいだで、手を握っていてほしかっただけなんだよね。

今時の子を褒めたあとに、欲しかった一言

三十二歳の沙織は、十年近く一緒にいる相手のひと言に冷めた。
若い子を見て、ああいう感じ今時だよな。
かわいい、と言われるよりこたえたのは、比べられた感じがしたから。
今時がいいなら、最初から今時の子と付き合えばよかったじゃん。
沙織にしては、強い言い方だったそう。
相手は、そういう意味じゃない、と慌てるばかり。
欲しかったのは、謝罪の決まり文句じゃない。
今の沙織のどこが好きか、その場でひとつでいいから言ってほしかった。
結局、それは出てこなかった。
翌週、相手は何も言わずに、沙織の好きなケーキを買ってきたの。
言葉の代わりがケーキって(泣)
言葉の遅い人だと、沙織は知ってる。
それでも、かわいいと思った瞬間の熱と、あとから埋め合わせる熱は、温度が違う。
その差を、沙織は十年のあいだに何度も見てきた。
この話を聞いたとき、私の胸にもズシンと重りが落ちた。

彼女いるのに他の女をかわいいと思ったら、今日からこうする

罪悪感を軽くするための告白は、しなくていい

海斗は今も、あの揺れを彼女に話していない。
話したら重いと思われそうで、黙っていると嘘をついている気がする。
どっちつかずのまま、三か月が過ぎた。
はっきり言う。
話さなくていい!
自分が楽になりたいだけの告白は、荷物を彼女に半分持たせるのと同じだから。
翔の彼女も彩花も、求めていたのは聞かせないこと、見せないことだった。
話していいのは、悠真みたいに、迷わず君が一番だと返せるときだけ。

よぎった一秒後に、隣の人で上書きする

かわいいが頭をよぎったら、自分を責める前に、体の向きだけ戻す。
健太みたいに、隣の手を握り返してもいい。
陽介みたいに、彼女のコーヒーの入れ方を思い出すのもあり。
大輝や直樹みたいに、相手の視界から自分ごと消えるのも手。
どれもダサいけど、隣に戻るにはそれで足りる。
くしゃみは止められない。
でも、彼女の顔に向けてしないことなら、今日から選べる。

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