一回目は、今週は忙しくて、タイミングが合えば。
二回目は、今ちょっと立て込んでて、またタイミングが合えばぜひ。
三回目は、タイミングさえ合えば行きたい。
三回とも、笑顔の絵文字つき。
27歳の航平さんは、同じ相手からこの言葉を三回受け取った。
自分の土曜は、ずっと空いていた。
相手のタイミングだけが、一度も数字にならなかったの。
四回目の誘いを打ちかけて、航平さんは指を止めた。
怒ったからじゃない。
合えば、の主語が自分じゃないと気づいたから。
誰がいつ合わせるのか、どこにも書かれていない約束だったわけ。
(航平さん、そこで止まれたのはえらい!)
この一言をめぐって、使う側の女性と、言われた男性の両方から話を集めてきた。
その上で、はっきり言う。
日付の添えられていないタイミングが合えばは、やわらかい断り。
欠航とは言わずに、遅延の表示だけを出し続けるフライトみたいなものなの。
搭乗口で、いくら待っても飛ばないよ。
タイミングが合えばと言う女の本音
断ったときの相手の顔を、見たくない
26歳の七海さんは、この言葉をよく使う側。
相手のことは、嫌いじゃない。
会いたくないほどでもない。
でも、今すぐ会うほどでもないの。
はっきり断ると、相手の表情が落ちるのが見えてしまう。
それが重たくて、タイミングが合えば、を置いておく。
置いた瞬間、その場は丸く収まる。
(それ、断ってるのと同じだよ…)
ただ、七海さんの予定表に、彼のための空白が作られることはない。
約束した覚えのない言葉が、相手の中では予約になっていく。
あとから少しずつ胸が痛くなる、と七海さんは言っていた。
わかっていても、次もまた同じ一文を出してしまうんだとか。
いちばん手間のかからない優しさだから。
NOと言い切る材料が、まだ揃っていない
24歳の栞さんは、告白されていない相手に使っていた。
食事に誘われる。
悪くはない。
でも、恋人にする想像はまだできない。
だから、タイミングが合えば。
返すと、相手は希望を残した顔をする。
その顔を見るのが、つらかったそう。
それでも、断り切るだけの理由が、自分の中に揃っていなかった。
揃わないまま切ったら、自分まで雑な人間になる気がして。
未定のまま置いておくのは、自分の決断を先に延ばすことでもあるのよね。
そのあいだに、本当に会いたい人が別の場所から現れた。
栞さんは、その人にはすぐ日付を出した。
その速さを見れば、前の相手に置いた一文の中身は明らかでしょ。
前の相手に、その速さが向いたことは一度もなかったんだから。
やさしい子だと思われたい
23歳のみことさんは、やさしいと思われたくて使っていた。
そこまで親しくない相手に、きつい本音は出さない。
代わりに、合えば、を置く。
置くと、相手はこの子は穏やかだな、と受け取る。
穏やかの中身は、決断の先送りなのに。
それを優しさだと思われるのが、みことさんはいちばん嫌だった。
嫌なのに、関係を切る言葉を持っていない。
ある夜、相手から、了解、とだけ返ってきた。
その短い一言のほうが、自分の長い一文よりずっと正直だった、とみことさんは言う。
居心地のいい関係を、固めたくない
27歳の萌香さんには、友達以上恋人未満の相手がいた。
会えば楽しい。
でも毎日会いたいほどじゃない。
週に一度と決められたら、息が詰まりそう。
だから、予定を固めずに済む言葉を選んじゃうの。
壊したくない気持ちと、進めたくない気持ちが、同じ胸の中に並んでる。
その状態を、タイミングのせいにしておけば楽なんだよね。
そうやって言い訳に隠れているあいだに、相手は本気の場所へ進もうとする。
進もうとされるたびに、萌香さんはまたあの一文を置く。
置く回数が増えるほど、相手の顔から余裕が消えていったそう。
消えた余裕を見て、やっと腑に落ちたらしい。
自分の優しさは、関係の延命措置でしかなかったと。
延命は、治療じゃない。
自分が言われた側だったから、重さを知っている
32歳の由紀さんは、昔、結婚を急がない相手から言われた側。
今はタイミングじゃない。
だから同じ系統の言葉が、どれだけ人を待たせるかを知ってる。
知っていながら、あまり好きじゃない男には使ってしまうの。
使うたびに、搭乗口で待ちぼうけだった昔の自分がちらつくんだとか。
それでも現場では、便利すぎる一文。
由紀さんはこれを、大人の断り方と呼んでいた。
でも受け取った男のほうは、大人になりきれずに待ち続ける。
置く側にとっては礼儀で、待つ側にとっては終わらない宿題。
同じ言葉なのに、二人のあいだで重さがまるで違うのよ。
新しい相手の存在を、隠しておきたい
31歳の絵里さんは、すでに別の男性と進み始めていた。
それを言いたくなくて、前の相手にはタイミングが合えば、とだけ返した。
並行していることを、隠すための一文。
それが前の相手には、希望に見える。
希望に見える言葉で、自分の新しい居場所を守っていたわけ。
絵里さんは、必要悪だと思っていたらしい。
そのツケは、前の相手の週末に回ってくる。
回ってきたツケを、絵里さんは見ないようにしていた。
見ないでいるうちは、自分はまだ優しい側にいられる気がしたから。
はぁ…正直言って、これがいちばん残酷なパターンだわ。
本当に忙しい女は、合えばのあとに数字をつける
引越しと繁忙期のさなかに出した、来月の第二週
29歳のあおいさんには、本当に身動きが取れない時期があった。
引越しと仕事の繁忙期が、まるごと重なったの。
誘われても、物理的に動けない。
そのときも、タイミングが合えば、と返した。
ただ、そのあとで自分から送った。
来月の第二週なら動ける。
その相手とは、実際に会えたそう。
同じ時期、その一文だけで終わらせた相手もいた。
分かれ道は、別の日を自分から出したかどうか。
出せた相手は、今が無理なだけ。
出せなかった相手は、今もこの先も、会いたい人のリストに入っていなかった。
あおいさん自身、あとで振り返って、その使い分けに気づいたんだって。
気づいてもなお、切る決断をしたくない相手には、同じ一文を使い続けていたみたい。
子育て中の女は、候補の月をひとつ添える
35歳の涼子さんは、本当にタイミングを待っていた女性。
子どもが小さくて、夜が自由にならない。
気持ちはあるのに、体が空かないの。
だから、今は難しい、タイミングが合えば絶対、と返していた。
絶対をつけた相手に、三か月後、自分から連絡した。
相手はもう、別の人と食事を重ねていたんだとか。
それを知って、日付のない一文には有効期限がある、と思い知ったそう。
こちらが本気でも、日付のない期間は、相手の生活を止めてくれない。
次から涼子さんは、短い候補を添えるようになった。
来月の後半なら、動けるかもしれない。
かもしれない、でも数字がある。
数字があるだけで、遅延のまま放置された便に、出発時刻が表示されるのよ。
短く断る女ほど、あとでちゃんと会える
28歳の春菜さんは、一度断った相手と、あとで普通に会っている。
最初の断りが、本当に予定だったから。
予定が終わってから、来週の木曜空いてる?と自分から送った。
その一文と、タイミングが合えばは、似ているようでまったくの別物。
違いをわかっている春菜さんは、合えば、を安売りしない。
安売りしない女の断りは、短いの。
短い断りは、そのときは痛い。
でも、相手の時間を守ってる。
長い一文で守ったつもりの優しさは、相手の週末をいつまでも空けさせるだけ。
言われた男たちの失敗と、抜け出し方
かも、に飛びついて二か月
30歳の廉さんは、一度だけ、本当にタイミングが来たと思った。
彼女から、来週なら空いてるかも、と届いたの。
通知を見た瞬間、心臓がドキッと跳ねたって。
すぐに、水曜と金曜を出した。
返事は、金曜は微妙、またタイミングが合えば。
かもが消えて、合えばだけが残る。
廉さんがこの一文を短く読めるようになるまで、二か月かかった。
その二か月、週末を空けすぎたみたい。
空けた週末は、結局誰のものにもならないまま(泣)
最後に日時を出して、了解で終えた
28歳の祐介さんは、機会があれば、落ち着いたら、またそのうち、を全部聞いた。
どの言葉のあとにも、相手から日程は来ない。
四週続いたところで、最後に具体的な日時を出したの。
今週末の日曜、十五時、あの店。
既読が半日ついて、返ってきたのは、その日は難しいです、またタイミングが合えば。
難しい理由は、一文字も添えられていない。
その時点で、祐介さんは返信を短くした。
了解。
潔すぎる(笑)
関係は、音も立てずに終わった。
自分で終わらせたと思いたかった、と祐介さんは言う。
実際は、ずっと前から相手の側で終わっていた。
終わっていないように見せていたのが、あの一文だったってこと。
肩がガクッと落ちる話だけど、あの了解は正しかったわ。
自分の年収や話術を、疑うのをやめた日
34歳の大輔さんは、婚活で何度もこの言葉を聞いた。
プロフィールは、悪くない。
食事も、悪くない。
なのに次の話になると、今は仕事で手いっぱいで、タイミングが合えば。
大輔さんは長いあいだ、自分の年収や話し方を疑っていた。
ある日、自分に言い聞かせた。
今じゃない人とは、続かない。
そう言えた途端、呼吸が楽になったそう。
相手を責める必要も、自分を削る必要も、なくなるから。
タイミングは相手の都合の名前であって、あなたの足りなさの名前じゃない。
疑うべきは、日付を持たない前向きさのほうだった。
一度だけ具体を出す、と決めた男
29歳の剛さんは、その言葉を真に受けて追いかけるのをやめた。
軽く流して、数日置く。
それから、具体的な日時を一度だけ出す。
同じ一文が返ってきたら、了解で終える。
このルールを作ってから、待つ時間が目に見えて短くなったって。
空いた週末には、別の予定が入るようになった。
その予定の中身は、待っていた頃よりずっと充実していたそう。
理由はひとつ、日付があったから。
日付のある人は、タイミングを待たない。
自分で作る。
タイミングが合えばと言われたら、どう返すか
その一文を、好意の数に入れない
33歳の慧さんは、言う側の女性の事情まで想像できる人だった。
はっきり断れば、あとが面倒になる。
職場や共通の友人がいる。
嫌われたくない。
今は無理でも、将来をゼロにはしたくない。
その気持ちは、好意とは限らないの。
保険のつもりでも、一文はまったく同じ形になる。
だから慧さんは、あの一文を好意の証拠から外した。
外したあとに残るのは、行動だけ。
別の日を出してくるか。
止まった会話を、向こうから動かしてくるか。
どちらもないなら、それが彼女の返事。
了解のひと言で、自分から幕を引く
返し方は、シンプルでいい。
一度だけ、日時を添えて誘う。
彼女の口から数字が返ってきたら、まだ滑走路は開いてる。
返ってこなければ、その便はもう飛ばない。
そこで、了解、と送って終わり。
追いかけない了解は、負けじゃないよ。
みことさんが言っていたとおり、長い一文より誠実な返事なんだから。
