恋に恋するとは、目の前の相手より、恋をしている自分に夢中になっている状態のこと。
相手の中身は、ろくに知らない。
なのに胸は高鳴り、特別な関係にいる自分を想像するだけで満たされてしまう。
映画でたとえるなら、予告編だけ見て、本編を観る前に好きになっている感じかな。
私にも、そんな時期があった。
というか、わりと長いあいだ、そこに住んでいたんだよね。
同じ経験をした人に話を聞いてみると、恋に恋する理由は見事にバラバラ。
なのに、冷めるきっかけだけは、ほとんど全員が似ていたんです。
恋に恋するとは、好きな人より好きでいる自分に酔うこと
主役は相手じゃなく、自分のときめき
恋に恋しているとき、頭の中のスクリーンに映っているのは誰だろう。
一見、相手の顔のように思える。
でもよく見ると、その隣で幸せそうに笑う自分のほうに、ピントが合っている。
連絡が来た瞬間の高揚感。
好きな人がいると誰かに打ち明けるときの、ちょっと誇らしい気分。
デートの服を選ぶ時間。
恋に恋する人が味わっているのは、恋愛のまわりに漂う甘い空気なの。
相手そのものは、その空気を生み出すためのきっかけにすぎない。
言葉にすると冷たいけど、渦中にいる本人はまったく気づけないのよね。
私が気づいたのは、何度目かのデートの帰り道
大学生の頃、サークルで少しだけ話した男の子がいた。
深い話をしたわけじゃない。
それでも、この人と付き合ったらどうなるんだろう。
そう想像するだけで、一日がまるごと明るくなる。
スマホが光るたびにドキドキして、返事の文面を何十分も考える。
その間、口元はずっとゆるみっぱなしだった。
頭の中は、ふわふわのお花畑(笑)
ところが、実際に二人で会ってみると話が違った。
会話が、思ったほど続かない。
彼が日常のあれこれを話している間、私はストローの袋を指先でいじっていた。
話が途切れるたび、テーブルにシーンとした空気が落ちる。
(あれ?こんなはずじゃなかったんだけど)
何度か会ったあと、駅のホームで突然気づいてしまった。
私、この人を好きだったわけじゃない。
好きになるかもしれない自分に、酔っていただけなんだ。
今思い出しても、穴があったら入りたい。
あの日は耳まで熱くなって、電車の窓に映る自分の顔を直視できなかった。
その後、連絡はどちらからともなく途切れていった。
10人の話から見えた、恋に恋する4つのパターン
想像の中だけで、恋が完結してしまう
22歳の悠人さんには、授業でよく顔を合わせる片思いの相手がいた。
話したことは、ほとんどない。
それでも、その人のことを考える時間は特別だった。
友達に、好きな人がいるんだと打ち明けるのも好きだったらしい。
相手が別の人と付き合い始めたとき、胸の奥が少しだけ痛んだ。
でも同時に、これで片思いも終わるな、と妙に肩の力が抜けたという。
21歳の陽太さんも、よく似ている。
大学で初めて好きな人ができた、と思っていた。
けれど振り返ると、その人のことはほとんど知らなかった。
告白する前に、相手がほかの人と仲良くしている姿を見て、気持ちが急にしぼんだそう。
本当に好きなら、もっと知りたいと思ったはず。
あとからそう気づいたと、少し照れながら話してくれた。
理想の枠に、相手を押し込めてしまう
27歳の蓮さんは、マッチングアプリで出会った女性に夢を描いた。
写真と自己紹介だけで、この人と付き合えたら楽しそう、とイメージが膨らむ。
初対面では、そのイメージに合う自分を演じて、本音をひとつも言えなかったとか。
二回目のデートで、彼女が仕事の愚痴を少しこぼした。
理想の彼女はもっと明るい人だと思っていたのに、と心が離れたらしい。
結局、三回目の約束はしなかった。
33歳の大和さんも、若い頃は同じ失敗を何度も繰り返していた。
少し優しくされるだけで、この人かもしれないと思い込む。
すぐに理想を重ね、付き合い始めると欠点が目について、あっという間に冷める。
相手を見ているつもりで、頭の中の理想を眺めていただけ。
焦りから、恋愛のスタートボタンを押してしまう
31歳の美月さんは、彼氏と幸せそうに過ごす友達を見て、急に恋がしたくなった。
好きな人がいたわけじゃない。
誰でもいいから好きになりたい。
そんな時期に出会った男性と、勢いで付き合い始めた。
最初は毎日連絡を取り合い、恋をしている実感に浸っていたそう。
でも一ヶ月もすると、価値観や生活習慣の違いが気になりだす。
この人と一緒にいたいんじゃない。
彼氏がいる自分でいたかっただけ。
そう気づいて別れを切り出したとき、相手はひどく驚いていたという。
26歳の颯太さんは、結婚を意識する年齢になって、恋人がいない自分に焦りを覚えた。
好きな人もいないのに、そろそろ恋愛しないと、と合コンへ。
そこで出会った女性と何度か会ったものの、心は動かない。
それでも付き合っている状態を保とうと、無理に連絡を続けた。
30歳の咲さんは、結婚した友人の話を聞いて婚活を始めた。
何人と会っても、この人となら、と思える相手がいない。
そんなとき、ある男性に言われた言葉が胸に刺さったそう。
君は相手より、結婚という形を求めているように見える。
咲さんは、何も言い返せなかった。
会えない時間や、関係そのものに恋をしている
29歳の心春さんは、遠距離の相手に強く惹かれた。
やりとりは、ほとんどがLINE。
返事を待つ時間や、次に会える日を想像する時間が、毎日を特別に染めてくれた。
ところが実際に会うと、会話は少なく、沈黙ばかりが続く。
会えないからこそ、好きでいられたのかもしれない。
会える回数が増えるにつれ、相手の生活感が見えてくる。
それと一緒に、気持ちも少しずつ温度を下げていった。
28歳の海斗さんは、彼女と別れてすぐ、次の相手を探し始めた。
恋愛している状態こそ、自分に合っていると思っていたから。
でも新しい人と会っても、心は凪いだまま。
前の彼女を引きずっているんだと思っていた。
でもよく考えると、恋しかったのは彼女本人じゃない。
付き合っている自分を失ったことが、寂しかったのかもしれない。
恋に恋しているかどうかは、相手の愚痴と沈黙でわかる
冷める瞬間は、相手が素の顔を見せたとき
話を並べていて、思わず声が出そうになった。
まさか、冷めるきっかけまでこんなに揃っているとは。
私は、彼の日常の話に興味が持てなかった。
蓮さんは、仕事の愚痴で心が離れた。
心春さんは、会ったときの沈黙。
美月さんは、価値観や生活習慣の違い。
大和さんは、付き合ってから見えた欠点。
どれも、相手が理想の役を降りて、一人の人間に戻った瞬間なんだよね。
愚痴も言うし、黙り込む日もあるし、地味な毎日を生きている。
恋に恋している人にとって、その素顔は予告編になかったシーン。
だから、本編が始まった途端に席を立ってしまう。
本物の恋は、退屈な話まで聞きたくなる
23歳の杏さんの話が、いちばん腑に落ちた。
推し活に夢中だった頃、彼女には、誰かと特別な関係になりたい気持ちだけがあった。
友達に恋バナを振られても、具体的な顔は誰ひとり浮かばない。
そんな杏さんに、ある日、気になる人ができた。
これは今までと違う!
すぐにそうわかったという。
相手の話を聞きたい、相手の日常を知りたい、と自然に思えたから。
ここが、恋に恋することと本物の恋の分かれ道。
相手の仕事の愚痴を、面倒どころか、もっと聞かせてほしいと思えるかどうか。
沈黙が落ちても、気まずさより隣にいる安心が勝つ。
ときめきが落ち着いたあとも、知りたい気持ちが残っている。
本物の恋には、この三つが揃っているんです。
あの頃の私に欠けていたのは、まさにこの好奇心だった。
自分に投げかけてほしい、いくつかの問い
恋に恋しているかもしれない、と引っかかっている人へ。
答えを出す前に、少しだけ自分に聞いてみてほしい。
相手の好きな食べ物や、休日の過ごし方を言えるだろうか。
相手がいない時間に浮かぶのは、相手の顔?それとも、隣に並ぶ自分の姿?
会っている時間と、友達に恋の話をしている時間、楽しいのはどっち。
相手が落ち込んでいる日にも、会いに行きたいと思えるか。
自分の姿ばかり浮かぶなら、まだ予告編の中にいる可能性が高い。
悠人さんが好きだったのも、片思いの話を友達にしている時間だった。
それを責めるつもりはないよ。
ただ、そのままでは本編が始まらないってこと。
炎上覚悟で言う、恋に恋しているうちは付き合わないほうがいい
相手は、あなたの恋愛ごっこの共演者じゃない
ここからは、かなり強めに言わせてほしい。
恋に恋している自覚があるなら、その状態で付き合うのはやめたほうがいい。
美月さんの元恋人は、別れを告げられてひどく驚いていた。
彼にしてみれば、毎日連絡を取り合う、れっきとした恋人同士だったはず。
颯太さんの相手も、無理に続く連絡の不自然さに気づいていた。
何か無理してる?
そう聞かれた颯太さんは、好きより恋愛したい気持ちが強かったと打ち明けた。
関係は、そこで終わった。
恋に恋する本人は、甘い夢を見ているだけのつもりかもしれない。
でも相手は、生身の気持ちを差し出している。
自分のときめきを満たすために、誰かを共演者として呼び込む。
正直言って、それは失礼すぎない?
婚活の焦りから始まる恋は、ほぼ恋に恋
もうひとつ、反発を承知で言うね。
周りが結婚したから。
そろそろ年齢的に。
そんな焦りをスタート地点にした恋は、ほぼ恋に恋だと言い切っていい。
美月さんも、颯太さんも、咲さんも、そこから恋を始めていた。
誰かを好きになったから動いたんじゃなく、恋人がいない自分が落ち着かなくて動いた。
求めているのが人じゃなく、形なんだよ。
恋に恋した自分を、責めなくていい
とはいえ、恋に恋する気持ちそのものを否定するつもりはない。
誰かを想って一日が明るくなる、あの感覚は本物だから。
私も、サークルの彼を想像していた日々を、今では少し愛おしく思い出す。
問題になるのは、そのときめきに他人を巻き込んで、引き返せなくなったときだけ。
一人で胸を高鳴らせている分には、誰も傷つかないんだし。
恋に恋する状態から、本物の恋へ進んだ人たちがしたこと
ときめきより、相手を知る時間を選んだ
大和さんの転機は、友人の一言だった。
お前、相手のことより、恋愛してる自分が好きなんじゃないか。
そう言われて、頭を殴られたみたいに我に返ったという。
それ以来、大和さんは相手をよく知ろうと心がけるようになった。
今の奥さんとは、最初から理想を押しつけなかった。
何気ない日常を重ねるうちに、気づけば好きになっていたそう。
劇的な始まりじゃなくても、恋は静かに育っていく。
話を聞きながら、なぜか私のほうが目頭が熱くなった(泣)
恋愛そのものを、いったん休んだ
咲さんは、婚活をいったん止めることにした。
そのかわり、自分の生活を見直す時間をとった。
何をしているときの自分が好きか。
誰と過ごすと、肩の力が抜けるのか。
恋愛の形を追いかけるのをやめて、まず自分の足元を固める。
遠回りに見えて、意外とこれがいちばんの近道なのかもしれない。
